【Protokoll】
[17] 嫉妬心

咲樹が安心して眠りについたのを確認し、
北条はそっと彼女の家を後にした。

「…夜明けか」

いつの間にか空は白んでおり、
朝日が目を直撃する。
その眩しさに暫し瞬きをし、
彼はゆっくりと伸びをした。

「一度署に戻るか…」
 報告も兼ねて
彼の足は西部署へと向かっていた。

* * * * * *

署の入口でバッタリと鳩村に出会った。

「ハトさん…」

鳩村の様子がおかしい。
何か思い詰めたような目をしている。

「ハトさ…」
「んで…」
「?」
「何でお前なんだよ…?」
「ハ…」

北条の声が途切れる。
鳩村の渾身のストレートが
彼の左頬を直撃していた。

口の中が切れたらしい。
血の味が広がっていく。

「何で…何でお前なんだよっ?!
 何で俺じゃないんだよっ?!」

鳩村は叫んでいた。

北条に対してでは無い。
その怒りは恐らく自分にこそ向いているのだろう。
咲樹を、彼女を守れなかった事が
鳩村の自尊心を酷く傷付けていたとしたら。

「ハトさん…」
殴られながらも北条は冷静だった。
声を掛け、肩に手を当てようとするが
それを乱暴に払われた。

「お前には解らねぇよ、俺の気持ちがっ!!」
「ハトさん!」

鳩村はそのまま振り返る事無く
刀に跨ると走り去ってしまった。

* * * * * *

唇の端から流れる血を抑えながら
北条は刑事部屋へと向かった。

其処には宿直の松田が
新聞片手に寛いでいる。

「お…どうした、ジョー?喧嘩か?」
「…いえ」
「血が出てるな。
 手当てしてやるから椅子に座れ」

新聞を机に置き
松田は手際良く救急箱を取り出す。

「一寸染みるぜ、ボウヤ」
「ボウヤって…痛っ!」
「ほら、ジッとしろ。
 薬が巧く塗れねぇだろうが」
「…し、染みる……っ!」
「そりゃ染みる薬だからな。
 後は絆創膏を貼って、…良し、完了」

手当はあっという間に終わった。
薬の染み具合だけはなかなか引かなかったが。

「で…?」
「はっ?」
「ハトか? 相手は…」
「いえ、あの…」
「大体解ってる。
 玄関の所で大声が聞こえてさぁ…」

松田は再び新聞を手に取る。
「イライラしてる訳よ、ハト。
 姫を守れなかった事。
 ナイト役をお前に取られちゃった事。
 その他諸々な」
「お…俺は……」
「そう。お前が悪い訳じゃない。
 第三者的にはな。
 けど、ハトはそう思っちゃいない」
「……」
「バイクで飛ばして気分転換出来りゃ
 ハトも多少は反省するんじゃない?
 まぁ、気楽にそれを待とうや」
「…そう、ですね」
「アイツはネチッコイ奴じゃないから大丈夫だって」

松田はふと何かを思い付いたように膝を叩いた。

「珈琲でも飲むか?」
「…飲めません、この状態じゃ」
「そうだったな…」

クスッと小さく含み笑い。
再び松田の視線は新聞に向けられた。

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SITE UP・2009.3.16 ©森本 樹

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