[18] 鳩村の気持ち

朝日が眩しい。
風が冷たく体に突き刺さる。

カタナの上で鳩村は
風と一体になろうとしていた。
徐々にスピードを上げていく。

「解っているんだ」
ヘルメットの中、声が響く。

「解ってるんだよ、バカヤロゥーーっ!!」

彼の脳裏には咲樹の笑顔が浮かんでは消える。

初めて会った時。
少し緊張していた彼女の初々しい姿が
彼の心を掴んで離さなかった。

その時からずっと想っていた。
自分にとって大切な存在になる、と。

横から宝物をかっ攫われた気持ちがしていた。

何時からだろう。
アイツにとっても彼女が大切になっていたのは。
それを気が付いていた筈なのに。
気が付いて、それを許す自分が確かに居た筈なのに。

現実は理想と全く違う。
鳩村にとっては、それだけが全てだった。

* * * * * *

どの位走っただろうか。
自分が気に入っている東京湾の一角で
鳩村はゆっくりとカタナから降りる。

ヘルメットを外し、髪を風に靡かせながら
胸のポケットから煙草を取り出した。

「ふぅ……」
苦い煙が体内を回る。

「結局…判らず終いだな」
せめて彼女に何かあったのかだけでも知りたかった。

北条は何かを掴んだのかも知れない。
大門よりは気軽に聞けた筈だったが
思わず殴ってしまった分
聞き出すのも気が引ける。
結果的に彼は
自分で聞くチャンスを潰してしまったのだ。
単純に、嫉妬に駆られて。

「結局俺は八つ当たりしただけだ。
 別にジョーの所為じゃねぇのに…」

歯痒い思いを事も有ろうに後輩にぶつけた。
彼が反撃してくれたら良かったのに。
そうすればもっと早く冷静に戻れただろうに。

「あの野郎、変な時だけ大人ぶって…」

解っている。
全部、言い訳。
そう言って自分を誤魔化しているだけ。

でなければ収まらない。
自分に対する怒りが。
虚しさが。

「だから肝心要の時に駄目なんだよ。
 解ってんのか、鳩村 英次?」

カタナのミラーに映る自分の顔を見ながら
鳩村はふて腐れた表情を浮かべてごちた。

* * * * * *

浜風がそよぐ。
心地良い冷たい風が
彼を癒す様に吹いている。

「…何時だ?」
時計は既に8時を回っていた。

「ヤバいな。そろそろ戻らねぇと…」

正直、少し署に戻るのは気が引ける。
北条と顔を合わせ難い。

だが。

「…ま、アイツも根に持つタイプじゃねぇし
 軽く謝っとけば良いか…」

何時までも此処で時間を潰す訳にも行かない。
そう思うと勇気が出てきた。

「願わくば…」
元気になった咲樹に会いたい。

そう心に秘め、ヘルメットを被る。
刀は小気味良いエンジン音を鳴らして
彼を西部署へと運んで行った。

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SITE UP・2009.4.15 ©森本 樹

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