[27] 罠・3

度重なる全身への衝撃で
北条は既に意識を失っていた。
そのまま力無く
天井からぶら下がっている。
足元には激しい暴行の証拠に
血溜りが出来ていた。

咲樹は目を逸らす事無く
その残状を見続けていた。
何も出来ない自分が腹立たしい。
しかし、少女を守ることが最優先だ。
だからこそ彼は耐えていたのだから。

「さて…と」

男達は北条を天井から下ろすと
徐に袖口を捲り、腕を晒した。
手には注射器が握られている。

「それ…何?」
「ペイだよ。純度99.9%。
 極上品さ」
「どうするつもり」
「この刑事さんにくれてやるのさ。
 こんな風にな!」

男は問答無用にヘロインを注入する。
針の痛みを感じてか、
殴られて変形した北条の顔が
少しだけ苦痛に歪む。

「ジョー!!」

咲樹の叫びは耳に入らない。
まだ意識は回復していないようだ。

「こいつにはまだ働いて貰わないといけないからな。
 あんた達は金蔓だから手は出さないよ。
 ボスの命令だ」
「ボス…」

咲樹の頭の中で桐生が追う組織と男達が重なった。

「ペイの大物取引。
 そう…貴方達なのね」

怒りが込み上げて来る。
怯える少女を抱き締めながらも、
咲樹の視線は真っ直ぐに
男達を睨み付けていた。

* * * * * *

西部署に身代金要求の電話が掛かってきたのは
翌日の夕方だった。

「お宅の刑事さん達を預かってる。
 ガキも一緒だ」
「どう云う事だ?」
「2人で1億。
 用意しなければ殺すぞ」
「2人? 数が合わない」
「良いんだよ。
 2人で1億。
 取引方法は後で電話する」

電話は一方的に切れた。
勿論逆探知は不可能。
引き伸ばす事も出来なかった。

「大さん。2人とは…」
「ジョーと咲樹の数が入っているのか。
 それとも人質になった子供の数か…。
 解りませんね」
「しかし大門君…」
「係長。1億用意しましょう」
「…解った。それは私が手配しよう」
「お願いします」

二宮は慌しく刑事部屋を後にする。

「大さん。他の連中にも…」
「報告は自分がやります。
 谷さんは引き続き組織の方を…」
「解りました」

谷が刑事部屋を後にすると
大門は素早く無線機に向かった。

「大門だ。…」

* * * * * *

「取引成立だよ。
 女刑事さん」

男は嬉しそうに喉を鳴らした。

「…どう云う事?」
「アンタと子供は返してやるよ」
「彼は…どうするつもり?」
「言ったろ?
 俺達の道具になって貰うってな。
 どうせ逆らえない。
 まぁ…見てな」

咲樹は悔しそうに歯噛みをした。
北条はまだ目を覚ましていない。
しかし、その瞬間からヘロインの悪夢が始まる。

「…許さない」
彼女はそう呟いた。

[26]  web拍手 by FC2   [28]



SITE UP・2005.03.28 ©森本 樹

【書庫】目次