[34] 攻防

「おい、又運転手頼むぜ」
北条の朦朧とする意識に
誰かの声が飛び込んでくる。
そう、室井だった。

「何処へ…?」
「西部署だよ」
「せいぶ…しょ…?」
「桐生って刑事が居るだろ?
 奴に借りを返さねぇとな…」

北条はふと我を取り戻した。
これはチャンスかもしれない。
上手く行けば桐生を救えるだろう。

「…解った」
「素直だな、坊や。
 ご褒美をくれてやるぜ」
「うっ…」

再度注入されるヘロイン。
これが保つまでの時間で
決着を着けなければならない。

北条は心を新たに
彼等の策に従う素振りを見せた。

* * * * * *

一方西部署。

落ち着かない桐生を横目に
大門は再度資料に目を通していた。

一見何の変哲も無い報告書。
だが何処かで
歯車が狂っている様な感じを受ける。
これが刑事の勘だ。

「リュウ」
「何ですか、団長…?」
「この新たな情報はパリで?」
「いえ、日本に帰国してからです。
 情報屋経由で…」
「情報屋…」
「団長…?」
「いや、何でもない」

「あの…」
「どうした?」
「一寸、外の空気吸ってきても良いっすか?」
「…そうだな」
苦笑を浮かべ、大門は了承した。

「行って来ます」
桐生はニコッと微笑むと
刑事部屋を後にした。

* * * * * *

桐生の姿を確認し、
室井はニヤリと笑みを浮かべた。
「借りを返してやる…」

胸元から取り出した拳銃。
それは自分のコルトローマンだった。
北条の目が拳銃の動きを捉える。

『必ず、守ってみせる…』

照準を合わせる室井。
そして狙われているのに気付かない桐生。

北条は思い切りアクセルを踏んだ。
そしてけたたましいクラクション。

「貴様ッ!」
室井は北条を止めようとするが
新たに打ったヘロインが誤算だった。
彼の体はすんなりと室井をかわし、
拳銃を奪い取る。

「?!」

クラクションに気付いた桐生が
北条の姿を黙認した。
「ジョー?」
慌てて後を追おうとしたが
車は遥か彼方に逃げた後だった。

* * * * * *

ハンドルを出鱈目に動かし、
北条は何とか室井の攻撃を封じていた。
しかし余り西部署から離れると
情報を伝える術が無くなる。

彼は一か八かの賭けに出た。
車を工場の壁に激突させたのだ。

「グワーッ!!」
「くっ!」

室井は衝撃の余り動く事が出来ない。
その隙を伺い、
北条は何とか車から這い出した。
後は西部署に向かうだけ。

肩から流れる血に気付く事も無く
彼は来た道をトボトボと戻って行った。
痛みは感じなかった。
だが、果てしなく長い道のように感じた。

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SITE UP・2005.04.22 ©森本 樹

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