| [38] 禁断症状との闘い |
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「グゥ…クッ……」 猿轡の奥から呻き声が漏れる。 禁断症状の悪夢が再び 北条に襲い掛かっていた。 弱り切った筈の体に 渾身の力を込めて。 目は血走り、狂気の光すら放っている。 其処に自分の知るあの優しい北条は居ない。 「ジョー…」 咲樹の囁きも今の彼の耳には届かない。 「グズ…リ……」 彼が放つ唯一の言葉。 『薬』 何度か激しく頭を振り やがて力尽き、荒い息のまま目を閉じる。 「……」 捲れたシャツから腕が見えた。 醜い注射痕。 一体何本打たれたのだろうか。 その上に暴行を受け 必死に署に逃げ込んだ彼。 「団長…」 今更ながら大門の判断の真意を咲樹は知った。 「彼は私達を守る為に命を賭けてくれた。 今度は私が彼を守る番…」 冷たいタオルでそっと額の汗を拭う。 それが気持ち良かったのか、 一瞬だけだが彼の表情に優しさが戻った。 「頑張ってね…。 私、傍に居るから……」 腫れた頬にタオルを当て、 咲樹はそっと囁いた。 北条は聞いていただろうか。 「う…」 彼の呻き声で目が覚めた。 転寝でもしていたのだろうか。 慌てて傍に駆け寄ると 北条は先程とは全く逆の様相だった。 ガタガタと噛み合わない歯で 猿轡を噛んでいる。 「どうしたの、ジョー?」 「ザブ…」 「寒いの?」 必死に頷いている。 禁断症状も峠が近くなっているらしい。 「どうしよう…。 何か暖める物…」 手元に毛布があるが 恐らくコレだけでは期待出来ないだろう。 「……」 咲樹の脳裏に遭難した人の話が浮かんだ。 『人肌が一番温かい』 躊躇いは有ったが、グズグズしている猶予は無い。 仮眠室の扉の鍵を閉め、 彼女は徐にシャツを脱ぎ始めた。 「待っててね。 今…暖めてあげるから」 「……」 ぼんやりとした意識で 彼は懸命に耳を傾けている。 破れたシャツを引き裂き、 露わになった胸に 自分の肌を合わせる。 酷く汗をかいてはいるが 体温は思った以上に低い。 その上から毛布を被り、 咲樹は彼の体を擦り始めた。 「頑張って…。 負けないで……」 いつの間にか涙声になっていた。 懸命に薬を断ち切ろうとする姿に 痛い迄共感してしまう。 「ジョー…負けないで……」 そう言うのが精一杯だった。 寒さによる震えは収まらない。 体温もまだ低いままだ。 彼女は懸命に体を擦る。 「ジョー…、ジョー……」 彼の意識を確認するように 耳元で何度も名前を呼ぶ。 外は月が傾き、 朝日が顔を出そうとしていた。 |