[55] 大門暗殺・1

或る事件で北条は致命的な判断ミスを犯した。
無事に解決はしたものの、
それが沖田のお陰だと思うとやるせなかった。

一人ぶっきら棒な表情で黙り込む。
相当機嫌が悪い証拠だ。
こうなると流石に咲樹も声を掛け難い。
そっと見守る事に徹していたのだが、
セブンでのふとした会話から
遂に北条の怒りは頂点に達してしまった。

フラフラの足取りで一人飛び出す北条に対し、
咲樹は何も言えないまま見送るのみ。

「あの状態で…家に帰れるのかな?」
「子供じゃあるまいし、大丈夫だよ。
 …心配?」
鳩村の問い掛けに、咲樹は肯定した。
「そう…」

「えぇ。それに… 沖田さん。
 今の、一言多いと思います」
「…俺もそう思うよ」
沖田自身の一言に
咲樹の方が驚いた。

「似てるんだ。
 若い頃の俺にね。
 だから同じ過ちを犯させたくない」
「だからって…」
「俺も口は器用じゃないから…。
 君の癪に障ったのなら、
 …謝る」
「私は良いんです。
 それよりもジョーが…」

「そんなに気になる?
 ジョーの事?」
「…えぇ。
 大事な仲間ですから」
「それだけ?」
「……」

「今日はついつい余計な事を喋っちまう。
 …忘れてくれ」

沖田は水割りを口に運び、
静かに飲み干した。

* * * * * *

セブンを出る直前、署から連絡が入った。
殺人事件である。

「酒呑んだ後にヤマかよ…」
鳩村が盛大にぼやく。

「ハト…刀乗れるの?」
「酒抜かなきゃ駄目だな」
「それもそうか。
 飲酒運転は危険だわ」
「だろ? 俺達は警察官。
 お巡りさんが違反しちゃ
 駄目でしょ?」

そう言うと鳩村はそっと
咲樹の頬にキスした。

「!」
「余り膨れるな。
 美人が台無しだぜ、
 お姫様…」
「ハト…」

松田亡き後、彼女を『姫』と呼ぶのは
鳩村だけになった。
彼の意思を受け継ぐかの様に。

「サンキュー、ハト」
「You're welcome!」

おどけた顔で微笑む鳩村。
咲樹は少しだけ元気を分けてもらった。

* * * * * *

殺人現場を目撃したのは北条だった。

だが肝心の犯人の顔も、
特徴も、
何も判らなかったと言う。

只犯人は3人組だと云う事。
殺されたのは東都大学の教授だと云う事だけ。
乏しい証言だった。
車種もナンバーも見られなかった。
そんな北条を二宮は激しく叱責する。

「ハマさん…」
「うむ…」

浜が上手く話を反らそうと
自分に責任があると告げたのだが。

「俺は誰かに助けて欲しいだなんて
 思っていませんっ!!」
今の北条は何処か仲間を拒絶している。
咲樹にはそう感じた。

「…素直じゃない」
「何が?」
険しい顔で咲樹を睨む北条。
今の彼には咲樹でさえも味方ではないのか。
そう思うと少し寂しくなった。

「…何でもないわ」
そう言うに留めた。

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SITE UP・2005.11.20 ©森本 樹

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