[80] 10年目の夜明け

「左手の甲に…引っ掻き傷?」
「あぁ、ジョーが残した…『証拠』だ」

鳩村はそう言いながら
前方を見つめている。

「あの状況で2つの手掛かりか。
 …良くやったよ、アイツ」
「……」

「姫?」
「…必ず、捕まえるわ。
 もう…こんな思いは
 誰にも味わって欲しくないから」
「それが『刑事』って奴さ」
「ハト…?」

「同じだったんだよ。
 お前も、ジョーも…」
「同じ……」

咲樹はそっと瞳を閉じる。

同じ思いだった。
この事件に対する苦しみも、哀しみも。
様々な感情が交差する。

やがて静かに瞳を開け、
咲樹は視線を外に向けた。

「…ハト、見付けた」
「?!」

咲樹の目には
群衆に紛れる犯人の姿が
はっきりと映っていた。

* * * * * *

鳩村の無線連絡により、
犯人の包囲網は完成していた。
逃げ惑う犯人を
咲樹は確実に追い詰めている。

恐怖心は消えていた。
其処には憎しみも、不思議と無かった。
左手の甲には
醜く変色した引っかき傷が残っている。
北条が残した『証拠』。

咲樹は拳銃を抜かなかった。
威嚇射撃も可能だったが
敢えてそれは行わなかった。

理由は…判らない。

「もう逃げられない!」
透き通る声で
犯人にそう警告する。

「観念しなさい。
 もう、逃げ切れない!」

「!!」
追い詰められた者の最後の足掻き。
犯人は咲樹に殴り掛かって来た。

「咲樹?」
沖田が驚いた声を上げるも、
咲樹は微動だにしない。

犯人が飛び掛るタイミングに合わせて
瞬時に体を変え、
胸倉を掴んで
アスファルトに叩き付けていた。

「…望月和夫。
 爆発物使用罪、
 激発物破裂罪、
 及び殺人の容疑で逮捕する」
手錠の音が乾いた空気に木霊する。

仲間達の支えにより
漸く咲樹は
『10年』の楔に
終止符を打つ事が出来たのだった…。

* * * * * *

「そうか。
 やはり10年前の事件も奴か」
「はい。
 指紋が一致しましたし、
 供述も取れました…」

大門の報告に
木暮は目を細めた。

「…漸く、区切りが付いたな」
「はい……」

「…団長の御蔭、だな。
 今回ばかりは…
 私も浜さんも……」
「…いえ、自分は何もしていません」

大門はそう言うと笑みを浮かべた。

「全員で『試練』に挑み、
 それに打ち勝った。
 ただ…『それだけ』です」
「…言うねぇ」

木暮は釣られる様に笑みを浮かべた。
新物のレミーマルタンを開け、
グラスに並々と注ぐ。

「乾杯しようか。
 大門軍団の結束と
 沢渡巡査に敬意を表して」
「はい。
 遠慮なく戴きます」

2人は笑いながら
グラスを重ねた。

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SITE UP・2006.09.01 ©森本 樹

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