[81] 和解

病室の前で
咲樹はもう長い間立ち尽くしていた。

花束を持つ手が震える。
何度もドアノブを触れようとしたが
勇気が出ない。

『ハトと約束したもの。
 …謝らないと』

頭では解っていても
彼の拒絶の顔は見たくないのが本音。

咲樹は又、溜息を吐いて
手を引っ込めてしまう。

すると。

ガチャ

中から不意にドアが開く。
出て来たのは…明子だった。

「咲樹ちゃん?
 何してるの、そんな所で?」
「え? あ、アコちゃん…」

「ジョーさんのお見舞いでしょ?
 その大きな花束も!
 あ、入ってよ。
 ジョーさん、ずっと待ってたんだから!」
「え?」

明子に促され、
咲樹は恐る恐る病室に足を入れる。

北条はまだ
体を起こせる状況ではないらしい。
それでも微かに声が聞こえる。

「アコちゃん…。
 緊張させる事言うなって」
「あ〜!
 ジョーさんまで照れてる。
 何なんだろうね、このお二人さんは?」

明子は咲樹から花束を受け取ると
それを活ける準備を始めた。

「ごゆっくりどうぞ」
「あ……」
「アコちゃん…」

暫しの沈黙。
それを破ったのは北条だった。

「…お疲れさん」
優しい、暖かな笑み。
其処に、あの時見せた厳しさは無い。

「団長から聞いた。
 やったな、咲樹さん」
「…私は何も」

「過去に打ち勝ったんだ。
 『何もやってない』訳が無い」
「ジョー……」

「…済まなかった」
北条は目を閉じ、
そっと侘びを口にした。

「俺は…
 咲樹さんの気持ちを知りながら
 その思いを踏みにじった。
 罵られても…文句は言えない」

「…違う、違うの。
 ジョーは悪くない。
 悪いのは…私なの……」

「咲樹さん…」
「今更『許してくれ』なんて
 虫が良過ぎるのは解ってる。
 でも……」

「…もう、止めようか」
北条は苦笑を浮かべている。

「似てるんだな、俺達。
 不器用な所まで」
「…そうね」

咲樹は漸く微笑を取り戻した。

「その笑顔を…
 見て居たかった」
「ジョー…?」

「やっぱり…
 笑った顔が一番似合うよ」
「貴方もね……」

蟠りは氷解していた。
静かに時が流れていく。
二人だけの時間が。

「長かった…」
北条の呟きに
咲樹は微かだが頷いた。

* * * * * *

明子は二人を気遣い
病室の外から様子を見守っていた。

「もう心配ないみたいね」

兄、圭介と同様。
明子もまた事情を知りながら
二人の絆を信じていた人間である。

「でもあの二人…
 これからどうするつもりかしら?」

先々まで気になるのは
兄と大きく違う点か。

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SITE UP・2006.09.12 ©森本 樹

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