[79] チェックメイト

「姫」
黒パトに乗る直前、
鳩村は彼女に声を掛けた。

「何、ハト…?」
「ジョーが意識を取り戻したら…
 アイツの事、
 許してやってくれないか?」

意外な申し出だった。
咲樹は暫し
何かを考えている様だったが。

「…逆、よ。
 私が…全て悪いんだもの…。
 今更『許してくれ』なんて
 虫が良過ぎるけど……」

「ジョーは…
 最初から姫を恨んでなんかいないさ」
「…えっ?」

「アイツに聞けば良い。
 本当の、気持ちを。
 事件が解決して、それから…な」
「…ハト」

この事件を解決すれば。
咲樹は静かに頷いた。

「えぇ。
 …必ず」

* * * * * *

北条が意識を取り戻した時、
其処には大門が居た。

「…だん、ちょう……?」
大門は何も言わず、
彼の髪を撫でてやる。

「俺は……」
「今度はお前が
 『休養』する番だ」
「こん…ど……?」

大門が何を伝えようとしているのか、
北条は認識出来ていた。

「…良かった」
酸素マスク越しの安堵の声。

大門はふっと微笑み、
モンタージュ写真を彼に見せる。

「コイツだな、ジョー?」
「…はい。
 でも…こんなはっきり、誰が…?」
「咲樹だよ」
「咲樹さん…が?」

「思った通り、彼女は はっきり覚えていた。
 今迄は恐怖心が邪魔をしていたが、
 お前の御蔭で彼女はそれを
 『証拠』に転換出来たんだ」

「俺は…何も……」
「…泣いていたよ、咲樹は。
 意識の無いお前の姿を見て、な」
「…団長」

「大丈夫だ。
 咲樹はお前を恨んでなどいない。
 安心して良い」
「…でも」

「自分が惚れた女を信じられなくてどうする?」
大門は笑っている。

「もう心配要らない」
「団長……」

「泣く奴があるか」
「え…っ?」

無意識に涙が流れていた。
それはきっと安堵の涙。
あの日の涙とは…似て否なる物。

「団長…。
 一つだけ、頼みがあります…」
「何だ?」

「手錠…。
 犯人の手錠……」
「…そんな事、皆 承知だぞ?
 何を今更心配してるんだ」

咲樹に犯人を逮捕させる。
それは軍団員全員の願い。

「お前は自分の怪我の心配をしてろ!」
大門はそう言うと
北条の額を指で弾いた。

* * * * * *

こんな筈では無かった。

自分の正体は『絶対』にばれない。
確信が有った。

追跡してきた刑事を刺したのも
想定内だった。
彼を消せば目撃者が消える。
その筈だったのに。

「何故…?」

10年経っても変わらなかった。

そう、最初は。
だからこそ、このゲームを楽しめた。
治安の象徴、警察。
その中で派出所は
最も狙いやすいターゲットだった。

善良な市民を演じている自分を
何の疑いも無く招き入れた
愚かな警察官達。

捻じ曲がった至福の時間。

だが…何時から歯車が狂った?
計算が狂った?

あの刑事が何故爆弾に気付いたのか。
そもそも、其処から全てが
おかしくなった気がする。

「くそっ!」
犯人にもはや
抵抗する『手段』は残されていなかった。

爆薬も在庫を使い果たし、
武器も無い。

「このまま捕まるのだけは…嫌だ」
彼は隠れ家で
身を潜める事しか許されていなかった。

『その時』が来る迄。

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SITE UP・2006.09.01 ©森本 樹

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