[78] 現場復帰

突然のチャイム。

咲樹はその音に誘われる様に
扉を開けていた。
彼の筈は無い。
それは解っていたのだが。

「…団長?」
予想外の人物の訪問に
咲樹は唖然としたままだった。

「ジョーが刺された」
「…えっ?」
大門の言葉がすんなり耳に入らない。

『刺された?
 誰が…誰に……?』

困惑する思考。
大門は咲樹の腕を取り、
愛車に向かう。

「急ぐぞ、咲樹」
大門に促されるまま、
咲樹は糸が切れた人形の様に
着いて行くだけだった。

* * * * * *

集中治療室で眠る彼は
まるで別人だった。
心電図のグラフが
彼の生存を表わしているが
それも心許ない。

「今晩が峠ですね。
 出血が多過ぎます」

医師の説明も
咲樹には聞こえていない。

「ジョー…?
 眠っているの?」

硝子の向こうの北条は
ずっと眠ったままだ。

「咲樹…。
 ジョーは、犯人追跡中に
 刺されたらしい」
「……」

「これが、ジョーの掴んだ
 『証拠』だ」

ビニール袋に収められた
あの『カフスボタン』。

「……同じ」
「?」

「同じ…です。
 あの男も…
 場所に似合わない格好だった。
 派手なブラウスと
 白いボストンバック……」

咲樹の脳裏にフラッシュバックする
当時の記憶。

「その男のモンタージュ、作れるか?」
「…はい。
 捜査に参加させて下さい、団長」

漸く、その一言が言えた。

彼が、北条が投げた切っ掛けは
確かに彼女に届いていた。
そして、ダイレクトに帰ってきた。
自分が信じた通りに。

「現状では
 犯人の目星が立たない状況だ。
 早急に頼む」
「はいっ!!」

咲樹は力強く頷くと
一礼して署に向かった。

「…ジョー。
 お前の気持ちは
 ちゃんと届いていたぞ。
 だから今度はお前が……」

彼ならきっと戻ってくる。
大門はそう信じていた。

* * * * * *

咲樹は明確に犯人像を思い出していた。
恐怖心が逆に犯人を
強く記憶させていたのだろう。

国立は其処に少し手を加え、
『10年後』、つまり『今』の犯人図を完成させた。

派出所の巡査に見せた所
「間違いない」との返答を得た。

「これで漸く捕まえられるぜ!」
鳩村は語尾を荒げていた。
彼も怒りが爆発寸前なのだ。

勿論彼だけではない。

「緊急配備は敷いてるが
 何時其処から抜け出すか判らん。
 手分けして当たるぞ!」

浜の号令に
全員が力強く頷く。

其処には現場復帰した咲樹も居る。
長いトンネルを抜け、
軍団が再び一つになった瞬間だった。

刑事部屋を出て行く部下達を
木暮は眩しそうに見守っていた。

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SITE UP・2006.09.01 ©森本 樹

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