| [82] 説得 |
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「おはよう御座います」 その出立ちを見て 刑事部屋の全員が思わず息を飲んだ。 「…な、何だジョー? お前、何で全身濡れてんの?」 鳩村は口から煙草を放し掛けた。 「…通り雨?」 「まさか」 北条はそれでも元気に笑っている。 「一寸野暮用で」 「野暮用?」 「えぇ。 その先で水をバケツで 貰ってきました」 「……」 「一寸着替えて来ます」 「…どうぞ」 当の北条はアッサリしたものだが、 それを見守る軍団員は 全員唖然としていた。 「…姫?」 「はい?」 「あれ…何だ?」 「…ノーコメント」 咲樹は気拙そうに俯いてしまった。 翌日はたんこぶを拵えて出社。 沖田は何となく事情を理解した様だ。 「随分と手荒い歓迎だな」 「…はは、まぁ」 それでも北条は笑っている。 最初の頃に見せた険しい表情は無い。 その顔はまるで 以前の少年から 一気に「大人の男」に変わった様に 穏やかで頼もしいものだった。 「…変わったな、ジョー」 「そうですか?」 「あぁ…」 「なら、彼女の御蔭ですね」 さも当然の様に 北条は笑顔で返す。 「…そうか」 沖田もふと笑みを零した。 「良かったな」 「まだまだ。 壁は高いっすよ。 解ってたけど」 「それでも… 『乗り越える』って決めたんだろう?」 「えぇ。 逃げる気は有りません」 「それならそのまま突き進めば良いさ。 お前は一人じゃないんだ」 「そうですね」 2人はそう言うと笑い合っていた。 「それにしても…」 木暮は大門をセブンに呼び、 静かに話を進めた。 「随分とジョーは忍耐力が付いたもんだ」 「…今回のヤマは 是非とも落としたいんでしょう」 「そうらしいな。 さて、ジョーさんは一人で この難解なヤマを落とせるのかな?」 おどけた口調の木暮に 思わず大門は吹き出してしまった。 「…珍しいな、大さん」 「課長が笑わせたんですよ」 「そうかい?」 「そうですよ」 木暮はふっと微笑むと 静かに珈琲を口に含む。 「…あの母親を説得するのには 骨が折れるぞ、きっと」 「課長…。 2人ももう立派な社会人です。 親の許可を得なくても 自分達の人生を築ける年齢ですよ」 「…成程ね。 そう云う方向性で攻めますか」 「…ジョーがそれに気付けば、の話ですが」 大門はそう言うと 少し困った表情を浮かべた。 「気付くのかねぇ、ジョーさんは?」 「こればかりは判りませんね」 木暮も少し困った表情を浮かべ、 珈琲のお代わりを注文した。 |