[82] 説得

「おはよう御座います」

その出立ちを見て
刑事部屋の全員が思わず息を飲んだ。

「…な、何だジョー?
 お前、何で全身濡れてんの?」
鳩村は口から煙草を放し掛けた。

「…通り雨?」
「まさか」
北条はそれでも元気に笑っている。

「一寸野暮用で」
「野暮用?」
「えぇ。
 その先で水をバケツで
 貰ってきました」
「……」

「一寸着替えて来ます」
「…どうぞ」

当の北条はアッサリしたものだが、
それを見守る軍団員は
全員唖然としていた。

「…姫?」
「はい?」
「あれ…何だ?」
「…ノーコメント」
咲樹は気拙そうに俯いてしまった。

* * * * * *

翌日はたんこぶを拵えて出社。
沖田は何となく事情を理解した様だ。

「随分と手荒い歓迎だな」
「…はは、まぁ」
それでも北条は笑っている。

最初の頃に見せた険しい表情は無い。
その顔はまるで
以前の少年から
一気に「大人の男」に変わった様に
穏やかで頼もしいものだった。

「…変わったな、ジョー」
「そうですか?」
「あぁ…」

「なら、彼女の御蔭ですね」
さも当然の様に
北条は笑顔で返す。

「…そうか」
沖田もふと笑みを零した。

「良かったな」
「まだまだ。
 壁は高いっすよ。
 解ってたけど」

「それでも…
 『乗り越える』って決めたんだろう?」
「えぇ。
 逃げる気は有りません」

「それならそのまま突き進めば良いさ。
 お前は一人じゃないんだ」
「そうですね」
2人はそう言うと笑い合っていた。

* * * * * *

「それにしても…」
木暮は大門をセブンに呼び、
静かに話を進めた。

「随分とジョーは忍耐力が付いたもんだ」
「…今回のヤマは
 是非とも落としたいんでしょう」
「そうらしいな。
 さて、ジョーさんは一人で
 この難解なヤマを落とせるのかな?」

おどけた口調の木暮に
思わず大門は吹き出してしまった。

「…珍しいな、大さん」
「課長が笑わせたんですよ」
「そうかい?」
「そうですよ」

木暮はふっと微笑むと
静かに珈琲を口に含む。

「…あの母親を説得するのには
 骨が折れるぞ、きっと」
「課長…。
 2人ももう立派な社会人です。
 親の許可を得なくても
 自分達の人生を築ける年齢ですよ」

「…成程ね。
 そう云う方向性で攻めますか」
「…ジョーがそれに気付けば、の話ですが」

大門はそう言うと
少し困った表情を浮かべた。

「気付くのかねぇ、ジョーさんは?」
「こればかりは判りませんね」

木暮も少し困った表情を浮かべ、
珈琲のお代わりを注文した。

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SITE UP・2006.10.05 ©森本 樹

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