[3] それぞれの朝・1

西部署近くの食堂で
堀内 昌兵と三上 修は
遅い夕食を採っていた。

「そう言えば、ホリさん?」
「…ん?」
「今日から新人が入って来るんですって」
「…みたいだな。
 足手纏いにならなければ
 俺は別に構わないよ」
「成程…」

「それでなくてもコッチは
 橘の事で頭が痛いんだ」
「あぁ…確かに
 ホリさんならそうでしょうね」
「ん?」
「…独り言です」

警視庁所属だった橘 数馬が
自ら志願して西部署に赴任して来て
早1年が過ぎていた。

鳩村支持派の堀内と
鳩村に反発する橘の間は
いつも火花が飛び交っており
周囲はホトホト困り果てている。

『似た者同士だって
 2人共、早く気付けば良いのに。
 あぁ、気付いてるから
 尚更反発し合うのかな?』

オムライスを突きながら
三上は空を見上げる。
いつの間にか朝陽が顔を出していた。

「もう朝ですね…」
「…だな。
 コレ食ったら署に向かうか」
「はい」

2人は会話を中断し、食事に集中した。

* * * * * *

カーテンを開け、窓から朝日を取り込む。
一人きりの生活となった広い部屋。
父親の死後、引っ越す事も考えたが
何故か今も此処に住んでいる。

「それで…良いのよね」
日下 直美はシニカルな笑みを浮かべ
父、憲吾の位牌に手を合わせる。

「じゃあ、行ってきます。
 今日から新人が加入するって話だから
 しっかり教育してあげますからね」

優しかった父。
強かった父。
そして…誰よりも自分に厳しかった父。

あのような思いは誰にもさせたくは無い。
そしてもう二度と、
あんな思いを抱いて事件に挑みたくは無い。

失わない為に戦う。
それが、直美の原動力へと変わっていた。

「団長御贔屓との噂だから
 ホリ君辺りは荒れそうね…。
 あ〜ぁ、面倒な話だわ」

慣れた様子で軽く朝食を採り、
化粧を整え、
直美は署へと向かって行った。

* * * * * *

坂東 耕作の朝は早い。
妻よりも先に起床し、
新聞を取り入れ、珈琲を淹れる。

不規則な時間勤務故に
妻の負担を軽くしたいと
何時の頃からか習慣となっていた。

「この間の事件の記事が
 今頃掲載されてるのか…」
トーストを齧りながら
坂東は更に新聞を読み進めた。

「株も下落してるな。
 大丈夫なのかな、この先…」

一通り紙面に目を通すと
もう良い時間になっていた。

「さて、そろそろ支度するか」

2階で眠っているであろう
妻の様子を思いながら
坂東は優しい笑みを浮かべている。

「今日は新人君が来る日なんだと。
 どんな子が来るのか、楽しみだ。
 良い土産話になると思うよ」

慣れた感じでネクタイを結び、
坂東は少しずつ
良き夫から1人の刑事へと
変わっていった。

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SITE UP・2009.2.10 ©森本 樹

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