[4] それぞれの朝・2

射撃練習所。

松山 高之は黙々と銃器のメンテナンスに
時間を掛けている最中だった。
数々の軽重火器をチェックし、
使用時に支障が無い様にと注意を怠らない。

「……」
ふと、気になって傍のPCを触ってみる。

「…北条、晴人…か」

晴人の事は鳩村の口から簡単に聞いただけ。
然も、朝礼の時にだ。
どんな相手かも知らない。
だからこそ、気になった。

「北条…。あぁ。
 そうか、団長の同僚。
 へぇ…母親もなんだ…」

知らされないと、知りたくなるものだと
松山はふと笑みを浮かべた。

「北条の使用する拳銃の登録は…」

更に晴人のデータを調べていくと
驚いた事が記載されていた。

「…マジ、か?」
流石にこれは松山も驚いたらしい。

言葉を飲み込み、彼はモニター上に描かれる
晴人のデータをただ見つめていた。

* * * * * *

「橘」
不意に声を掛けられ、視線を動かす。
其処に映ったのは。

「大門課長」
「今から出勤か? ご苦労様」
「…いえ」

橘は小さく会釈をして歩を進めようとするが
大門は苦笑を浮かべながら煙草を勧める。

「どうだ?」
「…戴きます」
大門から火を貰い、橘は徐に煙草を咥えた。

「話は聞いてると思うが
 興味は有るかい?」
「…新人、ですか」
「そうだ」

「特に、気にしてはいませんよ。
 俺自身も新人と変わらないし」
「お前は経験豊富だからな。
 最早、新人とは呼ばんよ」

それは大門が橘を大きく『評価』している証。
橘もそれは解っている。
だからこそ『甘え』は通用しない。

だが、新人はどうなんだろう。
ふと…そんな事が頭を過ぎる。

『気にしないと、言っておきながら…』

あの男の息子だと云う。
静かに笑っていた、団長の戦友。

『北条…晴人。
 どんな奴なのか、見せてもらうとするか』

不敵な笑みを浮かべ、橘はもう一度会釈すると
足早に西部署へと向かって行った。

「静かな闘志に火が点いたかな?
 結構、結構」

大門はその後ろ姿を眺め、
穏やかな笑みを浮かべていた。

* * * * * *

静かな朝陽が窓から差し込んでくる。
卓は大きく欠伸をしながら
それでも新聞に目を通していた。

「もう寝たら?」
「…ん、これ一通り読んだら」
「そう言いつつ30分以上経ってるわよ。
 若くないんだから、無理しないで」
「そうだな。…寝るか」
「そうしなさいな」

咲樹に促され、
卓は手に取っていた新聞を折り畳むと
ゆっくりとした動作で
寝巻きに着替え始めた。

その時。
不意に2階からドアの開く音。

「もう! 何考えてるのよ!!」
いきなりの罵声。
娘の美樹子である。

「お、只今」
「『只今』じゃない!
 着替えるなら自分の部屋にしてって
 何度も言ってるでしょ!!
 もう、デリカシーが無いんだから」
「そんな事を父親に求めるなよ。
 彼氏にでも求めとけ」

美樹子はスッカリ臍を曲げた様子で
大きく音を立ててドアを閉めてしまった。

「相変わらず、厳しいね。
 年々酷くならないか?」
「年頃の娘ってのは
 そんなものらしいわ」
「…へぇ」

娘から罵倒されたにも関わらず、
父親はのんびりとその場で
着替えを続けていた。

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SITE UP・2009.2.11 ©森本 樹

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