[5] 継承

「失礼します」
課長室では既に大門が着席していた。
その存在感の大きさに晴人は思わず萎縮する。

「北条 晴人巡査、だね。
 自分は捜査課長の大門 圭介だ」
「あ…初めまして。
 北条 晴人です…っ!!」

大門は暫し
静かに晴人の表情を見つめているだけだったが
不意に自分の机の引き出しを開けると
何かを取り出した。

警察手帳。手錠。そして…。

「これ…」
晴人はその物を見て驚きを隠し切れなかった。

使い古されてはいるが
手入れの行き届いた拳銃。
重厚感のある、まるでアンティークの様な。

「君の拳銃だ」
「…これって確か、S&WのM29
 44マグナムの8-3/8インチモデル…」
「随分詳しいな」

大門と晴人の遣り取りに
鳩村は黙って拳銃を見つめていた。
見覚えのある物だったからだ。

「課長…、コレって……」
「あぁ、リキの使用してた物だ」
「やっぱり……」

鳩村は漸く表情を崩した。
優しい目で、拳銃を見つめ直す。

「リキさん。
 コイツのお守りを頼みますよ。
 ジョーの愛息子です」

「リキ…さん。
 松田刑事の…拳銃を、自分が…?」

晴人は父、卓から様々な事を聞いていた。
その中には殉職した仲間達の事も。
だからこそ松田の名は、脳裏に刻まれている。

「リキも喜んでくれるだろう。
 此処で骨董品にされるより
 君の片腕となれる方が
 彼にとっても良い事なんだ」

大門の言葉が静かに部屋に響く。
心に浸透する、深く温かな言葉。

「マグナムか…。
 俺に扱えるのかな…?」

思わず漏らした晴人の独り言に
大門と鳩村は顔を見合わせると
思わず微笑み合った。

「良い機会だ。
 親父とお袋を超えてみせろ。
 あの2人はコルトローマンだったからな」
「コルトローマンの2インチですよね。
 自分も試したんですけど…
 軽いんですよ、銃身が」
「じゃあマグナムは丁度良いじゃないか」

大門は上機嫌でゆっくりと引き出しを閉める。
役目の終わった引き出しは
静かに元の場所に収まる。

「お手並み拝見するよ、北条。
 『ジョー』と呼ぶと
 親父と混同してしまうな…」
「そうですね…」

意外な盲点に気が付いたらしく
珍しく大門は困惑顔だ。

「さて、この2世君をどう呼ぼうか…」
「あの……?」
「『ジョー』でも良いんじゃないですか?
 親父の方は『北条』で」
「嫁さんも『北条』だろう?
 まぁ、咲樹の方は名前で呼んでいたから
 何も問題は無いんだが…」
「えっと……?」
「じゃあ、『ジョー』と呼ばせてもらうか」

鳩村は意地悪っぽい笑みを浮かべ
晴人の様子を伺っている。
スッカリ混乱している晴人の様子が
面白くて仕方が無いらしい。

「冗談だよ、晴人。
 そう呼ばせてもらおう」
「そうだな、団長。
 自分からも宜しく頼むよ、晴人」
「はい、宜しくお願いします…」

まだ、からかわれているんじゃないかと思いつつ
晴人は何とか返事をした。

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SITE UP・2009.2.12 ©森本 樹

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