[6] 遺恨

「全員揃った様だな」

刑事部屋に揃った面々を静かに見渡し
大門は静かに口を開いた。

「本日付でこの課に配属となった。
 北条 晴人巡査だ」
「北条です。宜しくお願い致します」

緊張は大門や鳩村の御蔭で大分和らいでいた。
しかし、先程から気になる視線。
それも2つだ。

「……」
橘と堀内である。

流石にその異様な視線に気付いたのか。
日下は小さく咳払いをすると
2人の後ろに回りこんだ。

「変なイチャモン付けたら承知しないわよ」
「…付けねぇよ」
「本当? 橘君は?」
「……」
「返事しなさいよ」
「約束は出来ない」
「…」

堀内の理由は聞かなくても理解出来る。
だが、日下には橘の理由が理解出来ない。
来たばかりの新人を目の敵にして
部署から追い出す魂胆だろうか。

「北条の教育係だが、橘。お前に…」
「謹んで、『お断り』します」
「!!」

鳩村の言葉に真っ向から抵抗する。
橘はそのまま一礼すると刑事部屋を後にした。

* * * * * *

「まぁ〜た、あの野郎はっ!!」
「ほ…ホリさん、落ち着いて……」
「落ち着いてられるか!
 舐められてんだぞ、鳩村軍団がっ!!」

エスカレートする堀内の怒りを
必死に宥めようとする三上だが
哀しいまでに無駄な努力と化していた。

「あ…、晴人。
 お前の教育係だが……」

こんな状況だけは見せたくなかった。
鳩村も流石に立つ瀬が無い。
大門は範疇内だったらしく
実に楽しそうな笑みを浮かべている。

「私が引き受けても良いですか、団長?」
名乗り出たのは日下だった。

「直美、頼めるか?
 お前なら安心なんだが」
「任せて下さい。
 じゃあ、晴人君…宜しく」
「宜しくお願いします、先輩!」
「…『日下』で良いわ」

元気の良い晴人の挨拶に苦笑を浮かべつつも
日下自身には好印象だった様だ。

* * * * * *

「じゃあ、順次 自己紹介な」
「坂東 耕作です。
 いやはや、初日から驚かせて済まなかったね」
「いえ、大丈夫ですよ。
 宜しくお願いします、坂東さん」
「私の事は『バンさん』でお願いします。
 皆にそう呼ばれてるんですよ」
「バンさんですか、良いですね」

「松山 高之。『マツ』と呼ばれてる…」
「マツさん、ですね。宜しくお願いします」
「…お前」
「はい?」
「……何でも無い」
「はぁ……」
「マツは誰に対してもあんな感じだから
 余り気にしない方が良いわよ」

「あ、俺 三上 修!
『オサム』って呼んでくれよ」
「じゃあ…オサムさん。
 宜しくお願いします」
「お前、可愛いよな。
 後輩出来るって聞いて、俺…楽しみだったんだ」
「あ…有難う御座います……」
「仲良くやろうな、晴人!」

「……」
「堀内 昌兵巡査。通称『ホリ』君。
 ほら、ちゃんと挨拶して!」
「…お前、団長の事どう思う?」
「(また始まった……)」
「とても素晴らしい方だと思いますけど」
「…だよな? 解るよな?!」
「は…はい」
「よし! お前の事は一応認めてやろう!」
「余りマトモに相手しなくて良いわ。
 この人、団長にゾッコンだから」
「直美、語弊の有る言い方は止めてくれ…」

* * * * * *

「で、先程出て行ったのが問題児の橘 数馬。
 腕は立つがあの通り天邪鬼でな」

説明を始めたのは大門だった。
流石に橘の事を良く理解している。

「実はな、先日
 お前の父親と諍いを起こしたらしい。
 まぁ、八つ当たりだと思って構わん」
「親父…いえ、北条警部補とですか?」
「あぁ。負けず嫌いな性格も合わさって
 なかなか厄介な事になってる」
「……」

そう云う事が遭ったのなら、
せめて息子に一言くらい欲しかった。
あの父親の事だ。
「大した事じゃない」と解釈したのだろうが。

「アイツを理解出来るとしたら
 それは晴人、お前かも知れんな」
「…?」
「あぁ、独り言だよ」

大門は何かを期待している様だった。
現状を変える、何か。
嘗てその役目を担った橘。
そんな彼と軍団を繋ぐ『鍵』の存在。

鳩村は何か言いたそうだったが
敢えて口を閉ざしたまま
心配そうに2人を見つめていた。

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SITE UP・2009.2.13 ©森本 樹

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